僕の考えた「最強」のベーシックインカム

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こちらの記事を読みました。

書かれている内容には異論ありませんので、その上で僕の考えた最強のベーシックインカム(最低所得保障)について語ってみたいと思います。

上記記事に書かれているように、ベーシックインカムを語る上で要点となるのは「財源」です。

考えられる財源確保の手段は増税「歳出の振替」の2つ。

もしも後者、つまり、なにかしらの歳出を削減して予算を確保するならば社会保障費」が妥当であろうと主張されることが多いのも、上記記事の通りです。

しかし記事にある通り、同じ個人の生活を支えるお金であっても「所得」社会保障は厳密には性質が異なるものです。

非常に大雑把な言い方をすれば、平時の生活を支えるのが「所得」であり、緊急時・非常時のイレギュラーな出費を補うのが社会保障です。

ですから、社会保障費をBI(所得保障)の財源に流用するということは、単純に考えて緊急時・非常時のイレギュラーな出費を補うための予算が失われるということを意味しています。

いくら所得が保証(保障)されるようになったとしても、イレギュラーな問題(病気や障害など)が発生した際のサポートが貧弱になっていたのでは、安心して生活することはできません。

社会保障費を財源にBIを実施するという発想は、根本的に無理のあるロジックであるということができるでしょう。*1

 

 さて、社会保障費をBIの財源としない場合、手段として残されるのは増税社会保障費以外の歳出の振替」です。

ここで極端な思想の方であれば、防衛関係費や公共事業費を減らして財源に充てろと主張するのかもしれませんが、もちろん私はそんな無茶な主張はいたしません。*2

やはり、現実的に考えれば、BIを賄うだけの予算を引っ張ってくるほど縮小できる歳出は、社会保障にしろそれ以外にしろ既存の歳出項目の中には存在しないと考えるのが妥当です。

となると、BIのために新たな増税が必要となるわけですが、当然そこでは、巨額となる課税先を具体的にどこに設定するのか、という点が問題となってきます。

 とかく課税の話になると、誰もが「自分以外の誰かから取れ」と主張しだして収拾がつかなくなるのが世の常ですので、ここを多くの人が納得できる設計としないことにはBIの実現は難しいと言わざるを得ないでしょう。

 

さあ、それでは前置きが長くなりましたが、僕が考えた最強のベーシックインカムを紹介しましょう。

 

僕が考えた「最強」のベーシックインカム

 

それは、社会保障制度を維持したまま、企業に対して「雇用税(雇用1人あたりの一律課税)*3」を設けることです。

 

具体的な説明をしましょう。

上記記事の試算を参考に、ここではBIとして全国民に月額8万円を支給するものと仮定します。

現在、日本の就労人口は約6000万人、総人口は約1億2000万人。つまり2人に1人が仕事に就いています。

そこでBIの財源のため国内のあらゆる企業に対して、従業員を1人雇うごとに16万円の税金を課すことにします。*4 *5

 

非常にシンプルですが、これでBIの財源は問題なく確保することができました

かなり突飛な話に聞こえるかもしれませんが、私はこれで問題なくBI制度が機能するのではないかと考えています。

 

この案を聞いて最初に思うのは「企業に対してそんな膨大な課税をしてしまっては、どの会社もやっていけないだろう」という疑問でしょう。

ですが、問題ありません。

企業は雇用税の財源を確保するため、従業員の給与を削減すればいいのです。

例えば、ある社員に給与として月に30万円払っている場合、これを14万円に減らせば雇用税を納税するための16万円分を確保できます。

給与を減らされた社員の方も、会社から貰えるのは14万円に減った一方、新たに国から8万円が支給されるので、総額では22万円の所得を確保できる計算になります。

「えっ、結局8万円減っているじゃん!」と思った方。

確かにこの社員1人で見た場合には所得は減少していますが、仮に家族がいた場合には話は変わってきます。

例えば、この社員に子育中のため専業で家庭に入っている配偶者2人の子供がいた場合、この家族3人に対してもそれぞれ8万円の支給を受けることになるため、世帯所得は合計で42万円と、元の30万円から大幅に増加します。

なんだか単身者に厳しく既婚者に優しい制度のように思えますが、そもそもBIの本質は未就労者保護のための制度ですので、未就労者のいない世帯の負担が増加するのは、ある程度当然の話です。

もっとも、就労者しかいない世帯に何のメリットもないかというと、決してそういうわけではなく、BIの制度化によって「仮に今の職を失っても最低限の所得は保障される」という保険が得られるわけですから、そのためのコストであると考えるのが妥当でしょう。*6

 

以上、僕が考えた「最強」のベーシックインカムの説明でした。

 

 

以下、余談として「なぜそうまでしてBIを導入すべきか」についての所見を書きます。

 

 BIを導入すべき理由は複数ありますが、個人的に最も重要だと考えているのは「失業者のセーフティネット」としての機能が必要だからという理由です。

いわゆる「就職氷河期世代」の問題に代表されるように、現在の社会システムは終身雇用が約束される無期契約の従業員(いわゆる正規雇用)と、それ以外の有期契約の従業員正規雇用)の格差が強く固定化される構造になっています。

なぜ、就職活動の際に正規雇用の椅子を逃した人たちが、その後、挽回の機会なく苦しい境遇に居続けなければならないのか。

それは、日本の企業が非常に厳しい「解雇規制」で縛られており、ひとたび正規として雇用した従業員を容易に解雇できない状況にあるからです。

この解雇規制があるために、企業は正規雇用の枠を極めて慎重にしか拡大することができません

仮に業績が好調で事業拡大の好機であったとしても、あまり調子に乗って正規職員を雇いすぎてしまうと、将来、会社の業績が落ち込んだときに解雇規制のため人員削減ができず、危機に陥るかもしれない。

そういった憂慮から企業は一部の正規雇用と解雇のしやすい非正規雇用を組み合わせ、リスクを非正規雇用者の側にだけ負わせるようになってしまいました。

一般に「雇用の流動性」の低下といわれるこの問題は、日本の国際競争力低下の一因でもあると考えられます。

富める者と貧しき者の格差が固定化するのを防ぎ、企業の競争力を取り戻すためには、なんとしても解雇規制は撤廃しなければならないというのが私の考えです。

しかし一方で、解雇規制を撤廃し、自由にいつでも誰でもクビにすることができる社会が、今の所得システムのまま実現してしまえば、それは労働者として不安極まりない事態です。

 

解雇規制を撤廃する。

 

その前提としてどうしても必要になるのは、いつ解雇されても最低限の生活はできるという社会的な保証(保障)です。

そうした保証があるのならば、労働者の側としても雇い主である企業に必要以上に媚を売る必要はなく、今よりももっと活発に転職起業にチャレンジして自己実現に励むこともできるでしょう。

雇用の流動性が高まることは企業や失業者だけではなく、現に職に就いている労働者の多くにとっても、より豊かな生活をもたらすものだと私は考えます。

BIはその突破口を開くだけの可能性を秘めているアイデアであると思いますし、そうなって欲しいと願っています。

*1:もちろん、将来的にBIと社会保障を統合して、単一の制度として運用する可能性はあり得ます。

ただし、その場合には現行の社会保障とBIによる所得保障が「合算」される形で制度設計がされていることが必要です。

また、BIの導入をスムーズに行うためには、極力大掛かりな制度設計の変更は避ける方が望ましいと考えられます。

BIはそれだけでも社会制度に大きな変革をもたらすものと考えられますから、その導入と同時に社会保障制度にまで手を入れようとすると、いつまで経っても設計がまとまらず、導入が進まない事態に陥ることも予想されます。

ですから、まずは現行の社会保障制度には手を触れず、BIをそれ単体で導入し、その後段階的に社会保障とBIの統合を図っていくのが望ましいのではないかと思います。

*2:そもそも、その程度ではまったく予算が足りません。

*3:造語です

*4:経営者や個人事業主も1人と数えます

*5:フルタイム労働者でない場合には、労働時間に応じて課税額を按分します

*6:なお、現状の給与が月に16万円以下の労働者はどうなるのか、という点についてですが、これは給与がゼロまたはマイナスになってしまっては、さすがに誰も働き手に名乗りをあげないものと思われますので、企業の側も給与を増やす(雇用税16万円+給与数万円にする)必要があると考えられます。

では、その増加分の給与の予算はどうすればいいかというと、それは、より高額の給与を手にしている別の社員(例えば管理職など)の給与を減らすことで問題なく捻出できます。

なぜなら、そういった高額の給与を手にしている職員は前述のモデルで登場した社員のように、その高額の給与で家族を養ってきたケースが多く(だからこそ高額の給与を必要としていた)、BIによって家族が直接8万円の支給を受けることになれば、その分給与が減らされても所得が激減することはないからです。

こうして企業内で自主的に給与の再配分が行われていけば、結果的にモデルで示した単身者の不利は解消の方向へと向かっていきます。